あらゆる商品の名前の中には“普通名称”のようにみえるけれど、実は特定の企業の登録商標である事も少なくありません。マジックテープ(クラレ)、ウォシュレット(TOTO)、宅急便(ヤマト運輸)などは、他社が使用する事ができないれっきとした登録商標です。エスカレータ(元・米オーチス)やホッチキス(元・イトーキ)はかつて登録商標でしたが、商標権が放棄、もしくは消滅して普通名称化しました。
■どこからが普通名称?
江戸時代創業の老舗すし店「小鯛雀鮨鮨萬(こだいすずめずしすしまん)」(大阪市)が節分用巻きずし「招福巻」の商標権を侵害されたとして、スーパー大手「イオン」(千葉市)が販売した「十二単の招福巻」の名称使用差し止めなどを求めていました。
争点は「招福巻」が節分用巻きずしの商品名として普通名称かどうか、がポイントでしたが、第1審の「商標権侵害に当たる」という判決を、第2審では第1審の判決を取り消し、「普通名称である」とすし店の請求を棄却しました。
すし店は1988年(昭和63年)に『招福巻』を商標登録し、2007年(平成19年)には、「招福巻」を使用していた他社に対して、商標権を守るために警告などの対応も行っていました。
しかし、大阪高裁によると、「2005年(平成17年)以降は極めて多くのスーパーで『招福巻』の商品名が用いられており、普通名称になっていた。商標権の効力は及ばない」と指摘しました。「招福」の言葉の一般的な意味と、主に関西地方で節分に巻き寿司を食べる風習を結びつけて、巻きずしを示す商品名として一般的に使用されている状況が考慮されています。
■普通名称化への対策
「招福巻」以外でも「うどんすき(美々卯)」や「正露丸(大幸薬品)」が裁判所により普通名称化した、と判断されています。
商品が世の中に広く認知される事を望む一方で、今回の裁判のように「普通名称化」してしまう危険性は隣り合わせなのかもしれません。基本的に、普通名称化は一般消費者ではなく、取引業界において、いかに一般的に使用されているかどうか、が基準になるそうです。
商標権を取得して守り続けるためには、(1)「マルアール」を付ける、(2)定期的な商標ウォッチング、(3)使用他社に対する警告、など他社の登録や使用を防ぐための素早い対応が必要になってきます。
※普通名称であるとの判断や判決は、現時点でのものであり、その後の使用状況によっては再び商標としての識別性を獲得する(普通名称でなくなる)こともあり得ます。ご了承下さい。