Column

最新ネーミング事情 Vol.164 「ポジティブ」に使われる「ネガティブワード」

2022年の調査で、インターネットの広告費が、新聞・雑誌・ラジオ・テレビを逆転したことが発表されました。

それを裏付けるように、近年は、SNS等ネット上で使われている言葉を、商品名やキャッチコピーに用いているケースが増えていると感じています。
ネット用語は、ネガティブな言葉が別の意味に変換されて使われているケースも多いのですが、最近は大手企業もネット用語に対して寛容的になっているようです。

また、2022年は「ギルティフード」や「ギルティグルメ」と呼ばれる、高カロリー・高糖質な食品がブームにもなったように、ネガティブな要素を敢えてポジティブなものとして訴求していく流れは、今後も続いていくものと思われます。

今回は主にインターネットが発祥となった、「ポジティブ」に使われる「ネガティブワード」を取り上げてみました。

  • 悪魔の、悪魔的な

南極地域観測隊の調理隊員がテレビ番組で紹介し、後にローソンが商品化した「悪魔のおにぎり」などが有名です。
いつ頃から「悪魔」という言葉が「良い意味での背徳感」として使われるようになったのか、正確な情報はありませんが、2000年代末には、人気ギャンブル漫画を原作とした映画の「(ビールが)悪魔的にうまい」というセリフが掲示板サイト等で話題になっていました。この頃には「背徳感」的な使われ方をされていたことがうかがえます。

  • 無駄な、無駄に

本来「意味がない」という言葉ですが、現在は「無駄なことに労力を使っていて“すごい”」というポジティブなニュアンスでも使われています。
「無駄に白い(焼きそば)」、「無駄にこだわった(フォーク)」、「謎肉が無駄に浮かんでくる(カップライス)」など、日清食品が好んで使用している印象です。
こちらは、2000年代初頭には掲示板サイトや動画投稿サイトで「才能の無駄遣い」、「無駄に洗練された無駄のない無駄な動き」といった使い方がされていたようです。

  • バグる、バグってる

「コンピュータが誤作動すること、様子がおかしいこと」を意味していますが、「様子がおかしい」点をポジティブに表現する意図でも使われています。
最近は、モスバーガーが「チーズソースの量がバグってる。」というキャッチコピーで新商品を発売しました。
「バグる」=「(コンピュータに限らず)様子がおかしい」という使われ方は、2010年代中盤より散見されますが、2017年末に、毛量の多い狐の写真が「当たり判定がバグってる」とSNSで拡散された頃から一般的になったものと思われます。

  • 知らんけど

本来は大阪弁で、「自分の見解に責任は持てない」旨を言い添える目的で用いられますが、全国でもZ世代を中心に使われるようになり、2022年の流行語大賞にノミネートされました。
実際にこの言葉を使った商品もあり、「アツイノイケルシランケド」いうネーミングの耐熱グローブが注目されています。

  • 麻薬、ドラッグ

「麻薬卵」は韓国発祥の煮卵で、TikTokや人気YouTubeの紹介で話題になりました。そのネーミングのインパクトも、拡散に寄与したことは間違いないと思われます。
また、アニメや特撮作品において、“支離滅裂な展開”を“面白いもの”として「見るドラッグ」と評価するケースがいくつか見られます。
しかしながら、これらの表現は「犯罪」に由来するワードなため、実際の商品名やキャッチコピーに用いることは一般的でないと言えるでしょう。

トレンドに合わせて、どうしてもセンセーショナルな表現を追求してしまいがちな昨今ですが、その表現が本当に正しいのか、誰かを傷つけることになっていないか、一度立ち止まって考えることも重要です。